きわめて局地的なグルメマップ
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雨の中の猫
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「ストーリー京都」

ヌーベル・シノワーズ 四条木屋町上ル西側 イマージアムビル3F
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・総点 92  点/100
   
   
45  点/50
   
17  点/20  
   
サービス 15  点/15  
 
対費用効果 15  点/15  
 

 

 
 評価に関する詳細は
「採点基準について」をご覧ください。
 

寸評:今なお語りたくなるほどすばらしかった、既に閉店されたお店。

 

 

 昨年行った時には既に閉店して新しいお店ができていました。そちらもヌーベル・シノワーズとのことだったので、改装などを行いリニューアルしただけなのかもしれませんが、たいていそういう場合スタッフの移動などがあり同じお店とはいえないことも多いので、閉店扱いと致しました。そちらのお店に行く機会が何度かあれば、また別に紹介・評価いたします。

 
  一見すると学生サークルなどが騒いで使うような大衆居酒屋である。入っているビルからして「あじびる」の系列店なので、そのこともあって初めて入ったときは味に関してカケラの期待もしなかった。が、驚かされた。
 まさかこんな店で、こんなレベルの料理が出てくるとは誰も想像すまい。どの料理にも細やかな神経が使われており、またヌーベル・シノワーズにありがちないやらしさは微塵も感じさせない。本来の中華料理と比較して味は軽めではあるが、しかしただ抜けているのではなく軽さの中にしっかりとした実質がある。後にシェフのお目にかかる機会があったが、中国人であった。ちゃんと修行をしてきた人なのだろう、日本人の一般にも普通に受け入れられる程度に軽めの味にしながら、なおかつ芯の強さを保っている料理である。それまで日本人向けに味の調整された外国料理はなににつけくだらないと思っていたが、考えを改めさせられた。おそらくほんとうにしっかりとした技術とセンスがあるならば、本来の芯の強さを保ったままで、そのまわりのいらない味を削ぎ落とし、こうした料理もつくれるのだ。
 味に関して言えば、スープ類・炒め物・揚げ物・蒸し物がうまい。煮物とご飯料理はやや落ちる印象だった。技術的なことだけでなく、こうした店としてはきわめて珍しく、どの料理にもそれが皿にのせられて出てくるまでどれほどの手間・根気・工夫が費やされたかがよくわかるものだった。
 質のことを言えば別段珍しい材料や高い材料を使っているわけではない。むしろ中華の素材としてはそれなりありふれたものである。だが、例えばスープにフカヒレを使うならば、値段のはる見事な姿をしたものではなく、製造工程ではねられたような、料理した時に形のないほぐれてしまったようなものを使っている。しかし姿が重要でないならばそれでいいのである。味も変わるわけではない。野菜もありふれたものであったが、アスパラを例に挙げれば、味がなじみやすいようあの固い皮を縞模様に半分だけ落としてある。全部落としてしまってはアスパラの皮独特の食感やにおいを味わえないし、剥かないことには味がなじまない。別段たいしたことではないが、それをするためにかかる手間は相当のものである。
 さらに驚かされたのは従業員の質の高さであった。まだ若いがしっかりとしたフロアマスターの元で、全従業員が押し付けがましくはなく、適切なサービスを提供してくれる。居酒屋風の作りで収客も多いにもかかわらず、たった一度来店しただけで二度目には名前を覚えていた。高級とされるレストランのサービスでは当然のことであるが、このような店でそれができているところはあまり見たことはない。ビルの前をたまたま通っただけで挨拶されたこともある。営業時間外の話である。
 値段も安い。むしろ安すぎると言ってよい。確かに素材を見るに材料費はそこまでかかっていなさそうであるのだが・・・・。それにしても、この質の料理が後半やや食べきれなくなるほどの量があって3000円程度である。アラカルトにした時には、値段で量を判断して注文していたら、ウェイターに途中でいくらなんでも多すぎて食べられませんよ、というようなことをやんわり言われた。二人で行ったのだが、どうやら四、五人前くらい頼んでいたらしい。そのくらい安い。
 気に入って多い年には月一回ほどのペースで通った。ご飯料理や煮物がやや落ちると書いたが、それはどういうことかというと、やや油気が強くまた塩辛いのである。これは料理人だけを責めるわけにはいかない。第一に、日本人の好みは世界的な標準と比べると、一般に水気が多く、油気の少ないものを好む。他の料理に関しては調整されていることもあり、まったく気にならないものであったが、普段白米を食べているわれわれからするとどうしてもご飯料理だけは敏感になってしまう。第二に、多くの日本人は塩辛い味を好まない。これはより正確に言うと、塩辛さを感じる舌の器官が常に麻痺した状態でものを食べさせられているということである。塩分濃度と直接に関係はない。では、何が舌を麻痺させているかと言えば、グルタミン酸、即ち化学調味料である。これは実験すればすぐにわかることだが、同じ濃度の食塩水の一方にだけ化学調味料を入れて舐めてみればよい。驚くほど感じ方が違うであろう。同じ理由で本来海水より塩分濃度の高いしょうゆが、海水ほど塩辛く感じないのもしょうゆには(天然・人工にかかわらず)多量のグルタミン酸が含まれているからである。
 したがって、なまの塩の味をかぎ慣れていないわれわれが、身近なものである米を使ったご飯料理やグルタミン酸であふれかえっているものしか知らない煮込み料理を食べると、ややきつく感じるのである(日本では天然のものであれ化学調味料であれ、煮込み料理はグルタミン酸中心に味を組み立てるのに対し、中国ではコハク酸の旨みが中心となる)。
 そのことを何人かに指摘されたのだろう、ある時から急にこれら料理の味付けが変わった。油をほとんど使わず、かといって日本風の白米を出すのではなく、中華粥など日本人の好みに適合したものを中心にしっかりとした中国の味でまとめてくれるようになったのである。ただ料理の腕がよいというだけでなく、供応する相手を喜ばすために琢磨することを惜しまない料理人はめったにいない。

 わたしの知りうる限り、店舗としてみたときの最高の料理店であった。この店を教えてくれて、それから何度も足しげく通った相手とは疎遠になって久しい。音信がなくなってからも、だれかれ誘って通いはしたが、以前ほど頻繁ではなくなっていた。そうこうするうちに、気がつかぬ間に店は閉じていた。なくなったことが惜しまれてならない。

(2004/7/14)

 

 

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