気のない本棚
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雨の中の猫
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  対談 美酒について」 開高 健
吉行 淳之介
文庫サイズ エッセイ・ノンフィクション
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・総点 60  点/100
   

 

   
 評価に関する詳細は
「採点基準について」をご覧ください。
寸評:再読に耐えうるほどではないが、それなりに楽しめる本

 

 

その他の書誌情報:

 1980年代に入ったばかりの頃、サントリーが自社出版物のためにセッティングした著者二人の対談が一番のおおもとである。なお開高はサントリー出身。その後、82年にTBSブリタニカから単行本で出され、それを85年に新潮が文庫化したものである。
 この本の後続作として「街に顔があった頃」というのが存在している。

 
コメント:

 気分良く酔っ払った酔っ払い二人があれこれくだを巻きあっているというだけのもの。
 それだけのものなのだが、実に面白い。いったいなんでこれが面白いのだろう、不思議にも思うがわからない。だいたいそこらの裏通りで、毎晩飲んだくれて大きな話ばかりしている、口の臭いオヤジどもが言うことと何が違うのだろうか。何も違いはしまい。恐らくこの本の面白さの一つには、そこらのオヤジと同じように酔っ払っていることこそが挙げられるだろう。二人の対話の脈絡もまた話題のリズムも持っていき方も、お世辞にもお見事とはいいがたい。あちらへころがりこちらにもどり、酔っ払いの話そのままに一貫せずにころげていく。それが面白い。

 対談そのものの内容について言うならば、さすがにそこらのオヤジにはできないようなものである。片や世界を飛び回ってきた開高と、片や酒を飲み尽くしてきた吉行が、酒をテーマに語るのである。ありきたりのものになるわけがない。書誌のところに書いたように、もともとサントリーが自社のために企画した本である。いくらかは社の宣伝目的もあっただろう。だが、この二人はそんなことをかまいもしない。そうした本のたいていは、ある程度はその社の製品を紹介してみたり、商品名を織り込んだりしたりするものなのだが。せいぜい巻末についている、酒に関する用語辞典に、わずかに宣伝要素があるかどうかといったところである。読者が気にかけてやることでもないが、この対談の企画者が多少哀れにも思われる。二人がするのはサントリーとは関係のない、ただあらゆる酒にまつわる話でしかない。それだからこそ面白いのではあるが、通常であればスポンサーに遠慮してそうしたことはできないはずである。やはり著者たちの持っていた力によってそれが許されたのだろうか。対談の行われた81年頃は、まさに彼らが文壇に君臨していた時期である。一方で作家としての最盛期はとうに過ぎ、今から思えば、あとはただ落ちて死んでいくだけの時期でもあった。

 書かれていることの情報としての内容は、現代のわれわれから見れば間違っていることもままにある。少なくともこの本を読んだだけで、酒についてさも通ぶって語るのは危険だろう。だが今でこそ珍しくもないが、値段の割りに質の優れたチリのワインや、イタリアン・ブームですっかり日本でもおなじみになったグラッパ、それにちょいと小洒落た飲み屋にままには置いてあるピンガと、そのオールドファッションドカクテルのカイピリンヤを、その作り方や名前の由来にまで言及しながら、この時代に既に紹介しているのには驚嘆すべきである。恐らくだれも、聞いたこともない酒だっただろう。このどれも流行り始めるのは2000年かそこらのことだ。バブルの末期かそれがはじけた後に流行った酒と言ってよい。それをまだバブル景気がはじまったばかりの頃に、既に紹介していたその嗅覚には驚かされる。

 総評すれば、そこそこ楽しめる内容と、抜群に面白い語り口を備えた、なかなか良質の対談本ということになる。注意しておきたいのは、今では雑誌掲載の時点でハネられかねない表現がいくつかあって、そうしたものを許せない人は読まないほうがよいといった程度のことか。もっとも、そんな方は少し時代の古いエッセイの類になると全滅してしまうだろうが。

(2004/7/23)

 
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